2026-08-03

二十歳の火影

 

海での風待ち時間に持って行った宮本輝のエッセイを読み終えた。
幼い頃から芥川賞受賞の頃までの様々なエピソードを、短く詰め込んだ名文。

宮本輝の文章はエッセイですら小説のようなストーリーを感じ、登場人物の姿を想像して読んでしまう。

中でも「蜥蜴」の一文が突き刺さったなぁ。
父の借金の為、夜逃げ同然の引っ越し。
その際、壁に取り付けた棚を再び引っ越しの為に外す事になる。
5年前に取り付けた棚と壁の間に蜥蜴が挟まっていた。
釘で打ち抜かれ壁に固定されたままで5年間生き延びた蜥蜴を見て、「今抜いたる」と宮本少年は釘を引き抜いた。
恐らくそのまま死んでしまうであろう蜥蜴に、5年間餌を運び続けた仲間がいるはず。
そのことを今でも思い出す事があるという。

もしかしたらこの私の体にも、死ぬほどの苦しみを味わってまでも断じて引き抜いてしまわなければならない太い錆びた釘がささっているかも知れぬという思いである。
釘を引き抜かれた瞬間の蜥蜴の激痛を思うと、自分は波風を立てずこのままそっと生きていようかと考えたりする。
だが人生には、きっと一度はそうした荒療治を加えねばならぬ節が、誰人にも待ち構えているような気もするのである。

自分を待ってるその節はいつなのか。もしくは既に経験した「あの事」「この事」なのか。
考えを巡らせながら読んだ。