2025-10-03

海辺の扉

 

宮本輝の古い作品「海辺の扉」を読み終えた。
上下巻を一日で読了するくらいに惹きこまれ、余韻が凄い。
ギリシャを舞台にした物語。

主人公の手が当たり椅子から落ちるという不慮の事故で、夫婦は2歳の息子を亡くす。
夫を許さない妻。過失致死という罪を大々的に取り上げるメディア。
簡単に解雇という決断をする会社。
全てに嫌気がさし、ギリシャへ旅立って4年。
ギリシャ人の妻を持ち、違法な仕事で食いつなぎ、息子の死を引きずりながら生きる主人公。

最後と決め、かなり危険な仕事となった豪華客船でのクルージングの旅の一幕が上巻のクライマックスで、ハラハラしながら読んだ。

遺跡や歴史が盛り込まれ、紀元前のヨーロッパ文化に触れる事も出来る。
このあたりが宮本輝らしくて、すごく好き。


ギリシャ人の妻の母の病気が原因で、妻を残し先に日本へ帰る事になった主人公。
職探し。かつての妻との再会。
遠く離れたギリシャに住む妻への想いが織り重なって物語は進む。
特に元妻との再会の場面で、昔吸っていたタバコを「はい」と渡されるシーンがグッとくる。

「息子を殺した」と自責しながら生きる主人公に、「それなら私がその子を産んであげる」という妻の言葉が優しく、素敵だった。


「再会の時、必ずや来たらん」という言葉を書いた、友人の元恩師の本。
宿命。過去世、今世、来世についての釈迦と提婆達多の話。
今「生きてる」ということについて強く考えた。


宮本輝の本は表紙の絵が素敵で、それも含めて好きなのだ。